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11月の金ETFは今年初の売り越し、資金はビットコインに向かった?

産金業界団体ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、11月の金上場投資信託(ETF)の投資残高は前月比107.07トン減の3,792.86トンとなった。北米が62.27トン減、欧州が42.43トン減、アジアが0.36トン減となっており、欧米を中心に金ETFの保有高を削減する動きが広がったことが確認できる。

金ETFの投資残高が前月比マイナスとなるのは今年初めてであり、100トン以上の減少となると2016年11月以来、ちょうど4年ぶりのことになる。1~11月通期でみると916.20トン増であり、前年同期の386.04トン増を大きく上回った状態に変化はみられない。ただ、11月に投資家の金に対する評価が大きく揺れ動いたのは間違いなさそうだ。

この11月は、3日に米大統領選の投票が行われ、9日には米ファイザーが新型コロナウイルスのワクチンにおける治験成功と緊急使用の申請許可を行う方針を発表している。投資家が大きな不安心理を抱いていた「米大統領選」と「新型コロナウイルスのワクチン開発」を巡る不確実性の後退が、安全資産としての金を保有するニーズを低下させたと言えよう。

11月のNY金先物相場は、1オンス当たりで前月比99.00ドル安の1,780.90ドルと急落し、4カ月連続で下落している。8~10月は金ETF購入の動きが鈍化したとは言っても、平均で41.39トン/月のペースで投資残高は増加し続けていた。11月の投資残高減少が「米大統領選」と「新型コロナウイルスのワクチン開発」を受けての一時的な売却圧力にとどまるのか、それとも本格的な資金引き揚げの初期動向なのかが注目されることになる。

■金ETF市場から流出した資金は、ビットコインへ?

一方、金ETF市場から流出した資金がどこに向かったのかも注目されている。通常だと、安全資産に対する投資ニーズが低下したことで金ETFが売却されたのであれば、その資金はリスク資産の代表格である株式市場に流入したと考えられる。実際にそうした傾向もあるのだろうが、それと同時に暗号資産(仮想通貨)のビットコインなどに対する資金シフトが行われているとの見方もある。

法定通貨に対する代替通貨との視点に立てば、金とビットコインは似たような役割を期待されることになる。ただ、これは代替通貨の視点では金とビットコインが競合関係にあるとも言え、代替通貨に対する投資ニーズの分散が、金からビットコインに対する資金シフトを促している可能性が指摘されている。暗号資産ファンド(例えばグレイスケール)に対する資金流入と、金ETFからの資金流出はタイミング的にはほぼ一致している。

ビットコインが過去最高値を更新したことが話題を集めたが、その一つの要因が金とビットコインとの間の資金シフトの場合には、金市場の資金フローに構造的な変化が生じ始めた可能性がある。

法定通貨の減価、インフレなどのリスク、ポートフォリオの分散ニーズなどの受け皿として、ビットコインが金に匹敵する資産クラスになり得るのかはここ数年にわたって議論されてきたが、機関投資家がビットコインファンドの新規購入にとどまらず、金ETFからビットコインファンドに資金も移し始めると、金市場に対する逆風、ビットコイン市場に対する追い風が構造的なものになるリスクを抱えている。


マーケットエッジ

プロフィール

小菅 努

Tsutomu Kosuge

マーケットエッジ株式会社 代表取締役

1976年千葉県生まれ。筑波大学卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト・東京商品取引所認定(貴金属、石油、ゴム、農産物)。

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