ファンドがゴールドを売る理由、買えない理由
内外の金価格が再び軟化している。直接的な下落要因は、米金利上昇とそれに伴うドル高圧力が強くなっていることだ。すなわち、いよいよドルの通貨価値を毀損する政策(=米金融緩和政策)がクライマックスを迎えるとの警戒感が、金相場の上値を改めて圧迫している。
メディアでは、4月の金相場急落が話題になった。しかし実際には、金相場はこれに先行する1月段階から量的緩和第3弾(QE3)の規模縮小、更には資産購入停止リスクを段階的に織り込んで値位置を切り下げてきている。昨年12月開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録で当局者の間で「出口」を巡る議論が活発化していたことが確認されたことが直接のきっかけだったが、雇用市場を中心とした米実体経済の回復が確認される動きと連動して、緩和政策のピークアウト・シナリオを着実に織り込んできていた。
一方、米国債市場では株価が連日の過去最高値更新となっても金利上昇圧力は限定されるなど、資産購入プログラムの早期解除見通しには慎重な姿勢が示されていた。これは、依然として米連邦準備制度理事会(FRB)が毎月850億ドル(約8.7兆円)ペースでの資産購入を継続していることを考慮すれば必ずしも違和感のあるものではない。しかし、「緩和政策の継続を織り込む債券市場」と「緩和政策の出口を織り込む金市場」と両市場で地合が180度異なる状況には違和感があり、このギャップがどの段階でどちらの方向に修正されるのかが注目されていた。
こうした中、ここにきて米金利上昇圧力が強まり始めていることは、これまで金市場が米金融緩和政策の修正リスクを先行して織り込んでいた判断が正しかった可能性が高いことを示唆しており、投機筋に売り安心感を強める結果になっている。要するに、金市場と米国債市場の見ている方向性が一致したことが、改めて金市場からの資金流出を促している可能性が高い。
教科書的には、「金利上昇で金利を生まない金保有の潜在コストが高まった」、「ドル高でドル建て金価格の輸入コストが低下した」といった解説が一般的である。しかし、こうした表面的な動きよりも、金市場がこれまで居心地の悪さを感じていた債券市場との乖離が解消に向かっていることが重要と考えている。
5月22日には、4月30日?5月1日に開催されたFOMC議事録の公表も予定されており、ここでの議論状況が更に金利上昇・ドル高を促す内容になれば、ドル建て金相場に対しては更に売り圧力が強まるシナリオも想定しておく必要がある。
■安値慣れし始めた現物筋
以上が、金相場が再び下落している背景となるが、もう一つ重要なのは現物市場の動向である。こちらは、「売り材料」というよりも「買えない材料」である。
4月下旬に金相場が急落した際には、現物市場でバーゲン・ハンティング(安値拾いの買い)が広がったことが、需給面から金価格を再び押し上げた。1,300ドル台から1,400ドル台前半であれば、「現物買い」が「投機売り」を吸収できるとソロバンが弾かれた結果である。
この論理で言えば、再び1,400ドル台前半、更には1,300ドル台へと値位置が切り下がれば、改めて現物市場主導で安値是正の動きが強まらなければならない。しかし、今回の下落局面では、現物市場がバーゲン・ハンティング一色となった4月下旬の価格水準に達したにもかかわらず、期待されていた程に現物買いが膨らんでいないのである。
一部の現物業者からは買い付け拡大の報告も聞かれるが、指標となる上海黄金交易所の純金売買高をみてみると、4月中旬から下旬にかけてみられたような買い圧力は全く確認できない。本日(5月20日)の人民元建て金相場は終値ベースで年初来高値を更新しているが、同取引所における売買高は僅かに13.6トンである。4月22日に43.3トン、23日に40.3トンといった過去最高の売買高が記録されていたことと比較すると、現物市場の反応は鈍いといわざるを得ない。
これは、米造幣局の金貨販売動向をみても同じである。4月は月間20万9,500オンスと09年12月以来で最大の売買高が記録されているが、今月は17日時点で僅か4万5,000オンスに留まっている。
以上のようなデータは、いよいよ消費者の「安値慣れ」が始まったことを示唆するものと考えている。従来は1,500ドルでさえも割安と評価していた現物筋が、いよいよ1,400ドル台、1,300ドル台でも割高と感じ始めているのだ。金市場は、これまで10年近くにわたって「高値慣れ」を迫る形で現物買いのライン引き上げを消費者に迫ってきたが、今後は改めてどの価格水準であれば「買って貰える」のかを打診するステージになる。
そして、これと同時に生産コストラインを巡る議論が活発化するのが、現在よりも下の値位置という訳だ。
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