金先物相場が過去最高値更新、ウクライナ情勢を警戒
大阪取引所に上場する金先物相場が過去最高値を更新した。2月21日の取引時間中の高値は1グラム=7,039円に達し(2月21日09:50時点)、2020年8月7日の高値7,032円を上回っている。背景にあるのは、ウクライナ情勢の緊迫化だ。ロシアがいつウクライナに侵攻するのか分からないとの不安心理が金融市場全体に広がりを見せる中、投資家のリスク選好性が低下しており、「安全資産」を求める動きが活発になっている。
2月24日には米露外相会談が予定されており、それ以外にも各国がロシアとの協議を行っている。しかしバイデン米大統領が2月18日、ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻を「決断したと確信している」と発言したこともあり、週明けのアジア金融市場は改めて不安定化している。
ロシアが実際にウクライナに侵攻すれば、欧米各国を中心に対露制裁が実施されるのは確実視されている。国際政治、経済、軍事環境に大きな混乱が生じる可能性があり、先行き不透明感が急激に高まっている。
しかも、現在はパンデミック後のサプライチェーンの混乱もあって既に強力なインフレ圧力が発生しており、米国では1月消費者物価指数が約40年ぶりの高水準となる前年同月比7.5%に達している。一方、ロシアは主要な資源生産・輸出国であり、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、資源価格の高騰がエスカレートする可能性が警戒されている。
原油、天然ガス、アルミ、ニッケル、銅、コバルト、金、プラチナ、パラジウム、ダイヤモンド、小麦、肥料など、多くの資源供給に混乱が生じる可能性がある。既にエネルギーや食品を筆頭に各種モノの価格が高騰しているが、今回のウクライナ危機の進展状況によっては、インフレが更に加速しかねないとの懸念も高まっている。
前回高値は、新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大し、ワクチンや治療薬の開発が可能かも疑問視される中で、金価格は7,032円まで上昇していた。その後はワクチン開発に成功し、世界経済が回復軌道に乗り始めたことで、2021年3月5日には5,852円まで急落していた。しかし、昨年後半からはインフレ懸念の織り込みや円安で徐々に金価格は上昇に転じ、今年は年初の段階で既に6,709円まで上昇していた。更にインフレリスク、金融市場不安定化のリスクを織り込むのかが問われている局面で、ロシアのウクライナ侵攻という新たなリスクが浮上していることが、金価格をパンデミックの混乱時よりも更に高値まで押し上げている。
一般的に「有事の金買い」は、実際にロシアのウクライナ侵攻と言った動き(=有事)が始まると一服する傾向にある。しかし、それによって強力なインフレ圧力が発生すると、世界経済や家計に対して大きなダメージが発生し、金価格は更に上昇が続く可能性がある。金相場が過去最高値を更新していることは、現在のウクライナ情勢が抱えるリスクの高さを強く示している警告と受け止めるべきだろう。