金について学ぶ

金価格を動かす7つの要因


2000年ごろ、1オンス300ドル前後だった金が、2011年には1800ドル以上まで急騰(金価格はLondonPMFix)。ところがその後はじりじりと値を下げ、2013年には心理的節目とされてきた1500ドルの大台を割り込み、一時は1200ドルをも割り込むところまで下落した。金価格が乱高下する理由について、フリーアナウンサーの大橋ひろこ氏がWGCの森田隆大氏に話を聞いた。

■金ETFの誕生も金価格が高騰する構造要因

大橋 2000年以降、金価格は上昇を続けてきました(図表1)。上昇の要因は何ですか?

森田 上昇した大きな要因の一つに、金ETFの登場が挙げられます。2003年に世界初の金ETFが誕生し、オーストラリアで上場。2004年にアメリカでも金ETFが上場されました。それまで金を保有する主な手段は現物になってしまうため、少量の金を保有する個人投資家はともかく、取引するなら額が大きい機関投資家にとって保管面の問題で、金は投資しにくい存在でした。しかし金がペーパー資産化された裏付けのある金ETFの誕生により、保管を気にせず、金の取引ができるようになりました。結果、金ETFの普及とともに、金投資する人が増え、価格の上昇に貢献したと考えられます。



■危機で買われた金 危機が去って売られる

大橋 なかでも2008年から2011年にかけて、金価格が急騰しています。なぜでしょうか?

森田 2008年にはリーマンショックがあり、2009年頃からギリシャ危機に端を発した欧州ソブリン問題が勃発。アメリカでは債務上限問題が取り沙汰され、2011年には米国債が格下げされました。
 金融システムや主要通貨への不安、安全資産として信じられていた先進国国債への懸念から、発行体リスクがなく、無国籍通貨である金の価値が注目され、高騰したのだと思います。

大橋 ところが2013年にはこれまでの動きから一転して、急落してしまいました。

森田 ここ十数年の金価格に変動をもたらした構造要因は大きく7つあると考えられます(図表2)。2008年以降の金価格は、ドルに対する信認不安とソブリンリスクへの懸念を主因に急上昇しましたが、米国経済の回復基調に伴い、ドルへの信認不安が和らぎ、欧州債務危機もひとまず沈静化したことから金融システムの安定性が高まり、こうしたマクロ要因を重視する先物や一部の金ETF投資家、いわゆる「ペーパー投資家」が、金を売却し、株式などの資産に資金を振り向けていたからだと思います。

大橋 金融危機などで景気の先行きに不安がある時代には金が選ばれ、価格が上昇するのですね。昨今、金という守りの資産から株などへの積極的にリスクを取る資産へとお金が流れているということは、景気が良くなってきたのですね。
森田 金ETFの保有量を見れば一目瞭然ですが(図表1)、2008年以降、急増しましたが、2012年以降、急減しています。ETFが金価格の動向を左右する要因の一つであることがわかります。



■実需投資家の買い増しが大きな下支え要因

大橋 このまま金は低迷したままなのでしょうか? これ以上、下がることはあるのでしょうか?

森田 相場ゆえに価格がどうなるかは誰にもわかりません。ただ金価格の構造要因を考えた時に、マクロ要因でETFなどを売却するペーパー投資家に対し、価格下落により金を買い増している実需投資家の動きも見逃せません。
 短期的な価格変動による収益より、長期的な保有の意義を考えている投資家層は、下落局面で金を買う傾向にあります。今回の下落場面でも、中国・インドなどからの需要が急伸し、中央銀行も継続的に購入しています。金の供給面からみても、新たな金鉱山発見が少なく金の希少性に変わりはありません。産出コストも上昇してきていることから、価格の下支え要因になるでしょう。

 一方、マクロ要因で見ても、ドルへの信認不安や欧州ソブリンリスクが完全に払拭されたとはいえず、金融緩和に伴うインフレ懸念もあることから、金をヘッジ手段として投資したいと考える投資家はまだ多いと考えています。

 マクロ経済・金融市場の見通しが落ち着くまで、ペーパー投資家と実需家の綱引きは続きますが、やがて需給が重視される価格形成に回帰すると考えています。長期的に見れば、供給が制限される中で実需が伸びる構図に大きな変化はないでしょう。

大橋 危機への備えに金を持つことの重要性がわかりました!

日経マネー2014年3月号 TOKYO GOLD FESTIVAL2014連動特集 「なぜ、いま金(ゴールド)なのか?金取引の意義と魅力に迫る」より

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