金について学ぶ

貯蓄の金、投資の金


金を資産の一部に取り入れる場合、貯蓄性の高い方法もあれば、投資性の高い方法もある。様々な金取引の形態をどのように使い分けたらよいのか。金の専門家である池水雄一氏と亀井幸一郎氏に解説していただいた。

■下落した金はポートフォリオに必要なのか?

池水 金はポートフォリオのメインになる資産ではありません。過去10年、まるでメインのように資金が流入しましたが、2013年の価格下落で「あるべき正常な姿に戻った」と言えるのではないでしょうか。
 ただし金から株式や債券に資金が戻る中で、リスク属性の違う金のポジションを一定程度保有する意義は今も薄れていないと思います。

亀井 金は主食にはなり得ません。あくまでおかずの一品。ただ、ごはんをおいしく食べるにはおかず(金)が必要なんです。利息を生まない金ですが、実物資産でありながら無国籍通貨としての顔を持ち、発行体リスクがないという意味では極めて貴重な資産です。

■少額よりまとまった資金で純金積立すべき

池水 金を保有する手頃な手段として純金積立があります。これは日本で生まれた独自の制度です。
相場の価格変動を気にせず、コツコツ金を貯めていけるという意味では優れています。ただあまりにも少額だとかえって手数料が割高になってしまうので、できれば3万円ぐらいから始めた方がよいでしょう。スポットで買い増しできるので、価格が下がった時には多めに購入するとよいと思います。

亀井 純金積立は万が一に備えるための資産ですので、積み立てたら何も気にせず放置すればいいんです。「buy and forget」。買ったら忘れる。この精神が貯蓄としての金のスタンスです。

■テールリスクに備えるなら金貨

亀井 万が一、日本が財政破綻したり、ハイパーインフレで円が暴落したりするのが心配なので金を持ちたいという動機なら、金地金や金貨がおすすめです。金貨は持ち運びしやすく、必要な分だけ小口に分けて売ることができて便利です。海外にいっても換金できるので、こうしたリスクに備えて金を持ちたいという人なら金貨を持つのもよいでしょう。

池水 ヨーロッパでは代々、親から子へ金貨を引き継ぐ習慣もあります。戦乱に巻き込まれた際、母国から逃げた先で生活するには、金貨が貴重なお金代わりになるからです。持ち運びがしやすいのも金貨が好まれる理由です。

亀井 インドで宝飾品として金を持ちたがるのは、金貨と同様、持ち運べるという点に力点が置かれているからだと思います。

池水 一方、中国で金が最近人気なのは、自国通貨や自国政府への不安の表れだと思います。ようは国が信じられない。だから無国籍通貨の金を保有するという動きが活発になっていると考えます。

■便利なETFなら貯蓄にも投資にも使える

亀井 金のETFは、貯蓄的な意味合いで金を保有する手段としても活用できますし、相場が上がったら売って収益を得て、相場が下がったら買い増しする、もしくはショートしてヘッジするといった投資的な使い方もできる便利な商品です。小口で売買できる利便性もETFにはあります。

■相場観を持って商品先物・CFDで収益を狙う

池水 金の現物保有や純金積立は購入したら忘れるのが基本ですが、金の値動きを見て相場観を持って取引したいなら商品先物取引やCFDを活用するとよいでしょう。為替変動に影響を受けず、純粋に金の値動きだけで短期的に収益を狙うならドル建てのCFDがおすすめ。逆に為替変動の差益も含めて収益を狙いたいなら、円建て金の取引がよいでしょう。

亀井 商品先物取引は「よく切れるナイフ」。うまく使えば大きな収益が得られる反面、使い方を間違うと、自分自身に大きなダメージを与えてしまいます。ナイフの使い方を心得ている人なら、先物にチャレンジしてみる価値はあるでしょう。

池水 商品先物やCFDで注意すべき点は、夢中になると、仕事が手に付かなくなってしまうこと。その辺の付き合い方は気をつけたいですね。

亀井 このように金取引と一口に言っても様々な投資方法があります。それぞれの資産状況や投資目的に応じてうまく組み合わせて使い分けるのがベストです。

池水 万が一に備える金なら「buy and forget」。値動きで収益を得たいと思うのなら「buy and sell」。どちらの意識で臨むのかは、投資する際にはっきりさせておいた方が迷いなく取引できるかもしれませんね。

亀井 幸一郎氏
マーケット ストラテジィ インスティチュート 代表/金属・貴金属アナリスト
和歌山県生まれ。1979年中央大学法学部卒業。山一証券に8年間勤務後、投資顧問会社を経て、金の世界的調査機関WGCに入社。金市場のマーケット分析に従事。
1998年独立。2001年マーケット・ストラテジィ・インスティチュート代表取締役。貴金属アナリストの第一人者的存在。数々のメディアでの市場分析のほか、住友金属鉱山サイトでは金市場を軸にした金融経済分析と市況解説を行う。著書に『急騰前の金(ゴールド)を買いなさい』(廣済堂出版)。

池水 雄一氏
スタンダードバンク東京支店長
1962年兵庫県出身。1986年上智大学卒業後、住友商事株式会社入社。その後1990年クレディ・スイス銀行、1992年より三井物産株式会社で貴金属チームリーダーを務める。2006年よりスタンダードバンク東京支店副支店長、2009年に同東京支店で支店長に就任。一貫して貴金属ディーリングに従事し、世界各国のブリオン(貴金属)ディーラーでブルース(池水氏のディーラー名)の名を知らない人はいない。著書に『金投資の新しい教科書』(日本経済新聞出版社)
日経マネー2014年3月号 TOKYO GOLD FESTIVAL2014連動特集 「なぜ、いま金(ゴールド)なのか?金取引の意義と魅力に迫る」より

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